召田司法書士・行政書士事務所|長野県松本市の相続登記

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【トピック 22】相続させる遺言による預貯金相続手続

被相続人が「私の遺産の全てをA(←相続人の1人)に相続させる」との遺言を遺していた場合で,Aが金融機関にその遺言書を見せて預貯金の相続手続を求めても,「他の相続人の実印をもらってください」とか「遺言執行者を選任してください」などと手続に応じてくれないことがあります。

これに対しては,令和元年7月1日施行の「民法第899条の2」を説明して,手続に応じてもらいましょう。

民法第899条の2【共同相続における権利の承継の対抗要件】
相続による権利の承継は,遺産の分割によるものかどうかにかかわらず,次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については,登記,登録その他の対抗要件を備えなければ,第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において,次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては,当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは,共同相続人の全員が債務者に対して通知をしたものとみなして,同項の規定を適用する。

Aの法定相続分が2分の1である場合,Aは金融機関に対し,残りの2分の1についても被相続人からAが相続したことを対抗したいわけです。そこで,民法第899条の2第1項の規定に則って対抗要件を備えるわけですが,預貯金は債権ですので,民法467条の規定に準じることになります。

民法第467条【債権の譲渡の対抗要件】
債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は,譲渡人が債務者に通知をし,又は債務者が承諾をしなければ,債務者その他の第三者に対抗することができない。

この民法第467条の「通知」の方法を使って対抗要件を備えるのですが,「債権の譲渡」と異なり「相続による権利の承継」の場面では,「譲渡人」に当たる者が死亡しているので,実際上「譲渡人」は「共同相続人の全員」と考えられます。これでは,金融機関の言っていることが正しいことになってしまいます。しかし,他の相続人全員の協力を得なければならないとすれば,このような遺言をする趣旨が没却しかねません。

※「債権の譲渡」と「相続による権利の承継」の相関性
  譲渡人 = 被相続人(=共同相続人の全員)
  譲受人 = 受益相続人(A)
  債務者 = 債務者(金融機関)

そこで,民法第899条の2第2項の規定が効果を発揮するのです。すなわち「遺産の全てをAに相続させる」内容の遺言書を見せてAが相続手続を求めたときは,「共同相続人の全員(=被相続人=譲渡人)が債務者(=金融機関)に対して通知をした」ことになりますので,Aは金融機関に対して対抗要件を備えたことになるのです。

このようなケースでお困りでしたら,当事務所までご相談ください。
[令和4年4月]