召田司法書士・行政書士事務所|長野県松本市の相続登記

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【トピック 16】相続開始後10年

相続が開始すれば,3カ月以内に相続放棄,10カ月以内に相続税申告,1年以内に遺留分減殺請求など,一定の期間になすべき手続/行為がいろいろあります。
「3年以内の相続登記」も加わります(※まだ施行前です。トピック13と15参照)。
そして,改正民法(令和3年4月21日成立の民法等の一部を改正する法律)では,新たに「相続開始後10年」という期間が設けられました。

(期間経過後の遺産の分割における相続分)
民法第904条の3
前三条の規定は,相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については,適用しない。ただし,次の各号のいずれかに該当するときは,この限りでない。
一 相続開始の時から十年を経過する前に,相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に,遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において,その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に,当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

(※本条は,令和5年4月までに施行予定です。)

条文冒頭の「前三条の規定」とは,次の規定のことであり,特別受益と寄与分について規定したものです。
【特別受益者の相続分】第903条,第904条
【寄与分】第904条の2

特別受益・寄与分とは,大雑把にいいますと,共同相続の場合の,千差万別の各相続の場面において,単純に相続開始時の財産の法定相続分とするのみでは公平な相続割合とはならないような事情があるときに,「特別受益」「寄与分」という制度によって修正を図ろうとするものであり,各相続人の具体的な相続分を算定(修正)するために用いられるものです。
例えば,相続人の一人が「あなたには特別受益があるから,遺産は私が多めにもらえるはずだ」「遺産には私が寄与した分があるから,私が多めにもらえるはずだ」という具合に主張して,自己の具体的な相続分の拡大を求めることが考えられます。

今回新設された「第904条の3」は,この特別受益・寄与分制度の利用を制限するものであり,遺産分割しないまま相続開始の時から10年を経過すれば,家庭裁判所に遺産分割を求めた場合などの例外を除き,特別受益・寄与分の規定が適用されなくなります。

平たく言えば,10年も放ったままにして,今さら細かな修正は求めないでね,というところでしょうか。
これも,早めの遺産分割~早めの相続登記という流れを市民に促す一環といえるかも知れません。

とにかく,特別受益や寄与分を主張したい相続人にとっては,新たに期間制限が設けられることになりますので,注意が必要です。


なお,この規定の適用範囲は遡及するか,という点については,
『遡及します』

施行日前に相続が開始した遺産の分割については,次のとおり読み替えます(附則第3条)。
民法第904条の3
前三条の規定は,相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については,適用しない。ただし,次の各号のいずれかに該当するときは,この限りでない。
一 相続開始の時から十年を経過する時又は改正民法施行時から五年を経過する時のいずれか遅い時までに,相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
二 相続開始の時から始まる十年の期間(相続開始の時から始まる十年の期間の満了後に改正民法施行時から始まる五年の期間が満了する場合にあっては,施行時から始まる五年の期間)の満了前六箇月以内の間に,遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において,その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に,当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
※一部分かり易く省略等しています。

したがって,相当古い相続案件については,改正民法の施行時(令和5年4月までに施行される予定)から5年を経過すれば,もう特別受益や寄与分を主張することが難しくなります。
[令和3年7月]